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気になる点がひとつあって、「著者名があっても、純粋にその人だけが起こしたものかどうかわからない」という点。

たとえば小説の場合、挿絵については別の著作権利が発生することがあるし、前書きや解説が著者以外ということも少なからずある。となると、それらは全部外したうえで対処しなければならないけれども、それらも「一冊の本」として考えると重要なファクターでもあるわけで……。



もちろん、小説に限らず、他の出版物でも同様で、少なくとも著者ひとりだけで出来上がったものではないこと、そして、著者が主張できるのがどの範囲までなのかを明確にしておかなければならないことが難しい。
少し前にも類似の話をしているんですが、小説なら「文章そのもの」が著作物であり印刷する前の原本が本来のマスターである、という点を忘れてはいけない。
もちろん、複製物も著作物のひとつなんですが、「スキャンしてPDF化する」というのは複製の複製、つまりは再複製になるわけで……。



ここで念のため、著作権の複製まわりについて確認してみる。

まずは複製の定義。

第二条
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。

次に複製権。複製権を持つのは著作者。

(複製権)
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

問題はこの先。「複製物である印刷物をスキャンしてPDF化する場合、何条をクリアする必要があるか」。
個人的には「第五款 著作権の制限」に含まれるだろうと推定。複製まわりで何かあったときに影響するのはいつもそのあたりのはずなので。

肯定的、つまり「PDFにしてもOK」と考えるとしたら、以下が相当するようには考えたり。

(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
第四十七条の八 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。

ただし、否定的に考えるとしたら以下あたりが影響する気がしないでも。

(複製権の制限により作成された複製物の譲渡)
第四十七条の九 第三十一条第一項(第一号に係る部分に限る。以下この条において同じ。)、第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項若しくは第四項、第三十四条第一項、第三十五条第一項、第三十六条第一項、第三十七条、第三十七条の二(第二号を除く。以下この条において同じ。)、第三十九条第一項、第四十条第一項若しくは第二項、第四十一条から第四十二条の二まで又は第四十六条から第四十七条の二までの規定により複製することができる著作物は、これらの規定の適用を受けて作成された複製物(第三十一条第一項、第三十五条第一項、第三十六条第一項又は第四十二条の規定に係る場合にあつては、映画の著作物の複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を含む。以下この条において同じ。)を除く。)の譲渡により公衆に提供することができる。ただし、第三十一条第一項、第三十三条の二第一項若しくは第四項、第三十五条第一項、第三十七条第三項、第三十七条の二、第四十一条から第四十二条の二まで又は第四十七条の二の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(第三十一条第一項、第三十五条第一項又は第四十二条の規定に係る場合にあつては、映画の著作物の複製物を除く。)を、第三十一条第一項、第三十三条の二第一項若しくは第四項、第三十五条第一項、第三十七条第三項、第三十七条の二、第四十一条から第四十二条の二まで又は第四十七条の二に定める目的以外の目的のために公衆に譲渡する場合は、この限りでない。

他の条項を参照しまくっててむちゃくちゃわかりにくいですが「記載された条項の目的以外で、複製物を渡すのは駄目よ」ということ、のはず。あんまり自信ないけれど。

ちなみにもうひとつあるとしたら「複製物の目的外使用等」(第四十九条)も影響するような。引用しませんけれども。



いずれにしても「一度印刷されたものを、別の事業者がデータとして複製して販売する場合においての、著作権法に抵触しない明確な理由」、つまりは、何条の問題をクリアしてますよ、ということを掲げておかないと問題が起きる可能性があるのではないかなあ、と。

どうやらこのサービスも、個人事業者の方が裏を取らずに勢いで行ってしまっている感があるので、そういう意味では明確にしておいたほうが良いだろうと思います。後でトラブルを生まないためにも。よって法律の専門家による教示を受けるなりしたほうが無難であろう、と。この推察も推察以上でも以下でもないので。



個人的には絶版して入手しづらい本がデータであろうと入手できるのは嬉しいことではあるんですけれどもねー。ただ、商業出版物ってひとりで作れるケースはまず多くないのもこれまた事実で、多くの人手を割いてはじめて出来上がってるというのが現実。よって、そんな簡単で甘くないものであるのも承知してたりするだけに、気分的には微妙です。

一番いいのは、元の原稿まできちんと遡って、改めて出版様態に合わせた処理を行うこと。電子データでも印刷物でも。これが一番間違いがないです。手間かかるけど、その手間を惜しむからややこしいことになるわけです。現状はいろいろ考えてしまうしかない。



関連エントリ:あんた、それ、逆効果。

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コメント

>>読み人知らずさん

編集者の権利、は、ないと思います。
音楽の歌詞のように、作詞に対する補作詞としての権利関係は生じる可能性はあるように思いますが、それであれば共著として記しておく必要があるように思います。
また、執筆者に無断で改変してしまうと同一性保持権の侵害になるので、何かしらの許可は得た形になっていると思いますので、手を入れていたとしてもその権利は難しいところじゃないだろうかと。

それを言い出すと、著名人が出版した著書だって、中身は全部ゴーストライターによるもので、かつライターには著作権が発生することは困難(または契約によって機密としていることにより明確にしない)ですので、いざ争う段になって明示できる契約書が存在しないない限りは難しい可能性はあります。

ということで、本来は校正が完了し、いざ出版する直前の段階で権利関係の契約書を取り交わした方がいいとは思うんですけどね。なかなか難しい面はあるところなんですが。

そういえば、編集者の権利ってあるんでしょうか?
場合によっては、文章のうちの相当量に手を入れ、書き換えてたりしますよね。
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